丹田はあなたを含めすべての人間の根っ子にあたります。
一本の根っ子から枝葉が成長し、花が咲き、果実が実るように、丹田を鍛錬して、気を充実させ中心を据えて心を調えます。
すると、人間の秘められた潜在力が開花し実となって実現するようになります。
そんな丹田練気と呼吸は密接な関係があり、丹田を練るための主役は呼吸にあるといってよいでしょう。
丹田呼吸法の効果
呼吸のあり方はそのまま身体動作に現れ、心の状態を左右します。
だから呼吸の仕方によっては、相手に自分の身体や心の状態を読まれることになります。
人間は何か動作をする時には、息を吐くか止めて行うのが通常であります。
息を吸おうとする瞬間は動きづらい。その事から呼吸を読まれると、息を吸おうとするタイミングで攻撃されてしまうと、かわすことができない。
吸気(スキ)ありということです。
丹田呼吸法の効果は、「声あらず、結せず粗ならず、出人綿綿として、存するがごとく亡きがごとく(天台小止観)」
といった、微細にして滑らかな呼吸は、身心の健康の面からも極めて大事な点です。
こういう呼吸は、横隔膜を十分にはたらかすことでできるようになります。
横隔膜の活性化
横隔膜は肺の底部に密着しているから、横隔膜が緊縮してドームの上のてっぺんが下がると、肺は下方向に拡張されることになります。
肺は、上方は肺尖といわれるとおり、とがって狭くなっており、底部になるほど広がった円錐状をなしている。
したがって、底部が下がると肺の体積は大きく拡大することになり、外見からはそれと察知されずに、深い呼吸ができるというわけです。
もちろん健康面においても、丹田呼吸法は図り知れない効能があることは言うまでもない。
丹田呼吸法は内臓を強化する!
昔の武芸者は、エアロビクス運動で心肺機能を高めたり、ウェイト・トレーニングで筋肉を鍛えることはすることがなかった。
それにもかかわらず、超人的な体力、膂力にすぐれた人物がたくさんいた。
針谷夕雲は、竹刀でもって鉄兜をかぶった男をたたき殺したという。
こういう力はただの筋力だけでは不可能であります。丹田の練磨によってのみ養われる力であります。
筋肉トレーニングだけでは内臓の発達が伴わないから、内臓は過剰負担で益々弱る。
丹田力による内臓の強化を基盤とした体力や膂力の練磨こそ、真の運動能力を育てるのである。
丹田充実の立役者である横隔膜という筋肉は、はたらいていないときはドーム状になっていて、緊縮すると下方に下がる。
そのために腹腔内は圧力が生ずるから、内臓にたまった静脈血は絞り出されるように心臓に還流する。
腹部は広い空洞であるから、古い血がたまりやすい。
だから、丹田の充実によって腹圧をかけるようにしないと、用済みの汚れた静脈血はいつまでも内臓に滞留することになる。
古い血液が滞っていれば、新しい血液の入る余地がないので、栄養も酸素も供給されず、内臓はどんどん弱っていってしまうのである。
心臓が動脈血のポンプであるならば、充実した丹田は静脈血のポンプであるといえる。
したがって、横隔膜の降下は腹腔を陽圧にすると同時に、胸腔を陰圧にすることになる。
心臓や肺は陰圧の環境におかれるとよくはたらく性質を持っているから、丹田の充実という一つの事が、腹部、胸部両方の内臓を強化する二重の作用を同時に果たすのである。
丹田呼吸法は妄想・雑念を去る
一刀流開祖伊藤一刀斎の剣法書には、「月無心にして水に移り、水、無念にして月を写す。内に邪を生ぜざれば、事よく外に正し」とある。
月は、水の上に来れば、即その姿を水に移し、水は間髪を入れずに月を写す。
月、水共に無心、無念だからである。
だから、月と水の如くあれというのが、この伝書の趣旨だが、人間はなまじ考える力があるだけに、そう話は簡単ではない。
妄想・雑念はなかなか消せるものではないのである。
しかし、斬り合いの場で、妄想・雑念に苛まれるようでは、たちまち首と胴体がお別れをすることになる。
それでは困るから、妄想・雑念の処理は命懸けである。
だが、意思の力で妄想・雑念を無くすことはできない。
「思わじと思うはものを思うなり」というわけで、雑念を捨てようと思うことがそもそも雑念なのだから、やっかいな話である。
このやっかいな妄想・雑念を去るのも丹田のはたらきである。
内臓には自律神経が密集して張りめぐらしてあって、内臓の活動をコントロールしている。
そういう関係から、内臓の強化は自律神経の強化につながることになる。
自律神経の強化・安定は、ホルモンのバランスも調えることになる。
自律神経系とホルモン系は、心理面に大きな影響を与える。
自律神経が衰弱したり、ホルモン系がバランスを乱すと、心理面にも乱れを生じ、妄想や雑念に取りつかれることになる。
また、丹田を充実させるために、上腹部を柔らかく凹ませた状態にすることが必要だが、このことは自津神経の集合である太陽神経叢を活性化して、心理的安定に大きく寄与することになるのである。